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仙台高等裁判所 昭和41年(く)18号 決定

少年 H・Y子(昭二四・八・五生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福島家庭裁判所白河支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、申立人名義の抗告申立書および抗告理由追加書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

本件少年保護事件記録および少年調査記録を精査すると、原決定摘示のぐ犯事実および中等少年院送致の処遇事由も十分に首肯し得られる。原決定が問題点として、少年の片奇った性格、少年と母との間がしっくりいっていないこと、不純交友の相手方にやくざ者といわれる人物が数名いること、少年が最後に家出して身を寄せたところが暴力団員であったこと等を挙げており、これが前示保護処分の事由になったことは明らかであるが、少年の母が審判の際、少年を教育してくれるところがあれば、そこで教育して貰いたい、もし家につれて帰っても住み込みで和裁を教えてくれるような安心できる就職口があればいいと思うが、具体的なことは何もしていないと述べたことも本件決定の重点となっていることがうかがわれる。ところで、本件ぐ犯事実の家出や不純交友が始まったのは大体本年三月からであって、その期間も短く、またこれといった非行歴がないこと等に徴すれば、その要保護性は必ずしも強いものとは認められない。本件決定後、東京にいる少年の姉(T・N子、既婚者)が母からの連絡により東京で少年の就職先を心配し、今後できるだけ少年の力になりたい旨申し出でたこと、少年にも就職の希望があること等が認められる。この点を考慮にいれると、少年には前示のように性格に問題があるけれども、知能はかなり高く、精神速度も敏しょうであるなどすぐれた点があるのであるから、現住地を離れて就職せしめさらに、適当な監督と援護を与えることにより、施設への収容をまたずして更生し得る余地があるものとも考えられる。今ただちに少年院に収容して矯正教育を施すことが必ずしも妥当であるとは考えられない。以上の点につき原審において更に検討を加える必要があるものと思料するから、結局原決定は相当でないといわなければならない。

よって、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畠沢喜一 裁判官 寺島常久 裁判官 中川文彦)

参考1 少年調査票〈省略〉

参考2 鑑別結果通知書〈省略〉

参考三

原審決定(福島家裁白河支部 昭四一(少)一七〇号 昭四一・六・二七決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(虞犯事実)

少年は、高校一年在学中の昭和四〇年九月頃知り合った岩瀬郡○○町居住の素行不良者○川○男(一八歳位)と交友(強制的に肉体関係を求められた)したことから急速に男友達との出入りが多くなり、昭和四一年一月下旬には、バーへ出入りしたり、保護者である母親の貯金通帳から三万円を引き出し、家出して東京上野駅で保護される等のことがあったため高校を退学した。同年三月初めから再び家を出て○地○男、○畠○広、三○木○次等と肉体関係を結び、四月○○日には家から現金二〇〇〇円を持ち出して家を出て不純性交をしたが、五月○日に睡眠薬を服用して須賀川署に保護されて帰宅した。更に五月×日に家出をして須賀川市の暴力団○○組○○○会の会員である○木○美方に身を寄せ三泊したのち、五月×日頃から同人の世話で伊達郡○○町○藤○男方に寄泊していた。

以上のように、少年は正当な理由なく家庭に寄りつかず、自己又は他人の徳性を害する性癖があり、その性格、環境に照して将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞がある。

(適条)少年法第三条第一項第三号ロ、ニ

(処遇)

少年が上記のような行為に及ぶに至った直接の契機は、札つきの不良少年に肉体関係を強いられたという不幸、且つ異常な出来事であった。しかし、少年は、自己顕示性、爆発性、気分易変性、自己中心性、規範無視性が極めて強い性格の持主で、すでに中学校入学時頃から、吃ること及び自分の肌色に対する劣等感も原因してか、とくにわがままで、非社交的で反抗的な態度が目につくようになり、とりわけ母親に対してはひどく拒否的で、憎悪、敵対の感情を露骨に現わすようになっていた。尤も少年が母親に対してこのような感情をいだくに至ったのは、夫の死後一人で農家を守ってきた母親が、勝気すぎて独善的で、とくに少年に対しては、少年の心情を理解しようという心を欠き、自分の思う型にはめ込んで育てようという一方的な態度で接してきたことにも原因がある。

そして少年が、上記の不幸且つ異常な性体験を機に家出を繰り返し、自棄的ともいえるほど次々と多数の男性と肉体関係を結ぶに至ったのは、この母親への敵対感情、異性に対する好奇心そしてまた自分の肌色等に対する劣等感を性関係より解消することを体得したこと等に起因すると認められる。

少年は現在多少反省の色を示してはいるが、上記のような性格が改まりつつあることをうかがわしめるほどの徴候も認められないのみか、母親に対する敵対感情は依然としてなくなっていない(当審判廷での母親に対する少年の態度にも現われている)。一方母親をみても、これまでの自分の少年に対する接し方の如何なる点が誤まっているか等について反省することもなく、少年の非を責めるだけで、今後の保護についての具体策も考えていない。

少年の家出を一再ならず、誘発する事情は依然解消していないと認めざるをえない。加えて、少年が性関係をもった男性の中には、所謂やくざ者が数名含まれていたこと及び五月×日に身を寄せ、世話になった○木○美は暴力団○○組○○○会事務所に同事務所の留守番役として起居する前科も多い男であることも見のがすことはできない。

このような諸事情を綜合すると、少年をして再び非行に走らせることなく、社会にも家庭にも適応でき、健全な社会生活を営むことができるようにするためには、施設に収容して専門的な心理療法を施し、健全な性道徳をうえつけ、上記のような偏った性格の是正をはかることが必要と考える。よって少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。

参考四

抗告申立書

少年 H・Y子

昭和二四年八月五日生

私は右少年H・Y子の母親であります

右少年は虞犯保護事件で、福島家庭裁判所白河支部において昭和四一年六月二七日中等少年院送致の決定をうけましたが、私はつぎの理由で、この決定に不服ですので、抗告の申立をします

理由

行い悪かった時はお願いしたいと思いますが今度はかいして下さいお願い申し上げます

昭和四一年六月二七日

右少年親権者

H・E子

仙台高等裁判所御中

参考五

抗告理由追加書

少年 H・Y子

昭和二四年八月五日生

右少年について、昭和四一年六月二七日抗告の申立をしましたが、理由に左記のことを加えます。

Y子はこれからまじめにやりますと答いました。

Y子希望は就職でした。

Y子の言う事もきいてやらないと悪くなるかと思っています。

東京の長女姉さんはT・N子です、夫はT・Kです。

力を合せてお世話してくれます就職見つけましたとの事です。

私Y子普通の人にする事守りますからかいして下さい。

長男H・MはY子の兄です。Y子の為にはつくしますといっております。

私は和裁習はせるかと思っています本人Y子と相談して一日も早く修養の道に進みたいと思っています。

乱筆にてお願い申し上げます。

見つけた就職先 ○○製作所

東京都世田谷区○○×××

此の会社は電気製品の部品の組立をする所です従業員は男二、三人のほか女十人あまりが働いています。寮は完備です。勤務時間八時から四時五十分との事です。

昭和四一年七月四日

H・E子

仙台高等裁判所御中

参考六

受差戻家裁決定(福島家裁白河支部 昭四一(少)二九三号 昭四一・八・一二決定 報告四号)

主文

少年を福島保護観察所の保護観察に付する。

理由

一、非行事実

昭和四一年六月二七日付原決定書記載の事実のとおりであるから、これを引用する。

二、適用法条

少年法三条一項三号ロ、ニ

三、処分の理由

(1) 少年は、本件について、昭和四一年六月二七日当庁において中等少年院送致の決定を受け、その親権者である母H・E子よりこれを不当として抗告の申立がなされたところ、同年七月二八日仙台高等裁判所において、少年の本件虞犯事実の家出や不純交友の期間が短く、その要保護性は必ずしも強くなく、また本件決定後少年の姉が少年の就職先を心配し、少年の力になりたい旨申し出ていることを考慮にいれると、施設への収容をまたずして更生しうる余地があり、今ただちに少年院に収容して矯正教育を施すことが必ずしも妥当でないとして、これを取消し、当庁に差戻す旨の決定がなされたものである。

(2) よって、当裁判所は、上記抗告裁判所の決定の趣旨に則り、本件について再び審理するに、少年は知能程度は普通域(IQ=105)に属しているものの、性格的には自己顕示欲が非常に強く、しかも気分易変性、爆発性の甚しい人格特性で、かなりの偏倚が認められ、その性格的偏倚が非行少年の○川○男と性交関係をもったことをきっかけとして顕在化し、生活行動に破綻をもたらせ、以後家出、不純交友などの虞犯行動を繰り返すにいたったものと認められ、その非行化の内的要因には必ずしも軽視することのできないものがあると思われるが、再審理の結果、少年の姉T・N子がその夫とともに少年を引き取って就職させ、今後監護指導する旨の意思を示していること及び少年の母も、いささか独善的なきらいはあるにせよ、真剣に少年の将来を案じ、少年の更生に力になりうると認められること、他方少年自身も少年鑑別所及び少年院における相当期間の収容の結果と母や姉の少年に対する愛情ある言動から自己のこれまでの自堕落な行動に反省の色を示し始め、今後就職して真面目に生活しようとの意欲をもち始めてきたことが認められるので、現在においては在宅のまま専門的指導保護を受けさせ、その性格の矯正をはかるのを相当と考えられるので、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 三宅陽)

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